最低賃金引き上げのシミュレーション

現在進行中の衆議院選挙をきっかけに、一部の政党や財界から最低賃金の大幅な引き上げが提案されています。 ターゲットは1,500円から2,000円まで幅広く議論されていますが、これが社会にどのような影響を与えるのか、自分なりに整理してみました。 まず、機械化とデジタル化への圧力がさらに高まるでしょう。 失業率がどこまで上がるかは未知数ですが、大企業がオペレーションのスケールメリットを活かし、相対的に有利になる可能性が高いです。 これは特に中小企業にとって厳しい環境になるかもしれません。 次に、労働者に求められるスキルの多様化、新しいテクノロジーの習得圧力も増すでしょう。 特に高齢者の雇用機会が減る可能性があります。 また、物価、特にサービス価格の上昇は避けられないでしょう。 一方で、時給2,000円以上の労働者の給与は大きくは変わらないと思われます。 最低賃金付近で働く人々の生活が多少改善される可能性はありますが、過去30年、日本の最低賃金は上昇しているにもかかわらず、中間層の収入はほとんど伸びていません。 このギャップが埋まらない限り、賃上げが経済全体に波及することは難しいでしょう。 さらに、実質的な時給が最低賃金に近いエッセンシャルワーカー(例えば保育士など)は、離職意向が高まるかもしれません。 仕事の大変さや拘束時間に対して、給与が見合わなくなってしまうからです。 総じて、短期的には、ひとり親世帯や苦学生、パート勤務世帯などには大きなメリットがありそうです。 彼らにとって、生活の質が少しでも向上するのは重要です。 一方で、子育て世代やその予備軍、また年金だけでは生活できない高齢者には、物価上昇による負担が大きく、公的援助が必要になるかもしれません。 もちろん、まだ考慮できていない点は多いと思いますが、最低賃金の急激な引き上げはメリットも大きい一方で、困る人々も出てくるのではないでしょうか。

10月 19, 2024

選択的夫婦別姓の議論で気づいたこと

最近、ニュースを賑わせている自民党総裁選。 候補者同士が議論する中で、選択的夫婦別姓の取り扱いがトピックの一つとして挙げられていました。 その中で、今さらながら気づいたことがあります。 選択的夫婦別姓を希望する人々(私もその一人ですが)がこの制度を希望する理由は、大きく分けて以下の2つがあると思われます。 事務面・手続き面の負担 = 利便性の観点 アイデンティティ = 自己同一性の観点 別姓制度の支持者が2つのグループに分かれる、という意味ではなく、個々人の中でこの2つの動機がミックスされている、という理解です。 これに対して、別姓制度に反対する人々の反論、というか代替案は、もっぱら1の利便性(の欠如)に対応したものだな、と思いました。 特に、反対派としてこの問題に取り組んできた高市早苗さんの議論に顕著でした。 遡って、利便性とアイデンティティ、これら2つの理由が別姓制度の支持者・当事者の内心に占める割合でいうと、平均では「利便性」の比重のほうが大きいのではないか、と想像しています。 「アイデンティティ」の比重が大きい人でも、夫婦同姓に反対意見を表明しようとしたら、不便さにまつわるストーリーの方が数多く出てくるのではないかと思います。 「選択的夫婦別姓」という手段としての制度改革目標が共通でも、実は最終的に解決しようとしてる課題が整理できていない、という状態が起きているのではないでしょうか。 反対派の人は、おそらくこれを認識した上で対案をつくっていると思います。 (それが狡い、という意味ではありません) 選択的夫婦別姓の推進者が本当に制度を実現したいのであれば、もっぱらアイデンティティに議論を集中し、利便性の課題の議論を一切許さない・相手にしない態度を堅持するのが重要ではないかと思いました。 通称利用じゃ何の解決にもならない、ということを言い続けなければならない。 アイデンティティの保護を究極的な課題として設定するならば、結婚した個人の姓の問題はもとより、婚外子や離婚後を含む子どもの姓の議論も、同じ熱量で行われているのが、一貫性の観点で望ましい、とも感じます。 名前を変える喪失感、その後の違和感は、おそらく姓が変わった直後が最も実感しやすい。 だんだんと歳をとるにつれて、変更後の姓に慣れていってしまう、ということもあるかもしれません。 長年の少子化および若年層の低い投票率が、前向きな意思決定により長い影を落としているのが選択的夫婦別姓制度だと言い換えることもできます。 社会保障制度改革のように、世代間のゼロサムゲームになってないだけ、まだマシなのかなあ。

9月 26, 2024