誰が見ているかもわからないブログですが、少しだけ振り返ります。
イギリスの大学を卒業した後、新卒枠でソニー株式会社に入社して、4年半の在籍となりました。最初の3年は海外向けのカーステレオ事業で製品開発、次の1年半は研究開発部門の「ビジネスデザイン・イノベーションラボラトリ」に所属して新規事業創出に挑戦させて頂きました。
カーステレオ事業では、当時急速にシェアが広がっていたスマートフォンとカーステレオの連携を担う新機能を担当しました。自らソースコードを書くところから、海外の開発パートナーとの折衝及び管理まで経験できたのは大きな糧になったと思います。また、この開発の流れで、MirrorLinkという技術の標準化団体に技術代表として参加して、仕様の議論や策定に携わることができました。
MirrorLinkは、USBを介してスマートフォンの画面をカーステレオ(カーナビ)に伝送・投影し、逆にステレオ側のタッチをスマートフォンに送ることで遠隔操作を可能にする、というものです。
Google Maps をはじめとした、インターネット常時接続ならではの便利さをそのまま車に持ち込みつつ、車側の安全自主規制、例えば車が動いている間のタッチ操作の遮断などを反映することができる、運転者、それ以外の通行者、規制当局、メーカー、サービスベンダの全てにとってメリットがある技術です。複数の車メーカー、複数のスマートフォンメーカーでの相互接続性が重要なため、民主的な手続きを経て仕様を決める標準化が必要でした。
開発に携わった製品は Best of CES を受賞し、その年のカーステレオ市場の旗頭になりました。
製品開発以外にも、特許申請、プロジェクトの谷間の時期を活用したアプリ開発や、中期市場計画、またソニー・エリクソン/ソニーモバイルとの協業など、幅広く活動させてもらいました。技術的にも、Linuxのデバイスドライバやハードウェア仮想化のレイヤから、GUIのレイヤまで見れたのは、メーカーならではの経験だったのではないかと思います。
製品開発にソフトウェア側から携わる中で、マーケティングや顧客接点との遠さにもどかしさを感じることが多く、それなら自分で事業を作ろうと、社内公募に参加する形で「ビジネスデザイン・イノベーションラボラトリ(BIL)」に移籍しました。
BILでは率直なところ、かなり苦労しました。
個人的に一番やりたかったのは航空機内のIn-Flight Entertainmentでした。車載製品と技術スタックの一部が似通っていて、世界トップの映画・音楽・ゲーム事業を傘下に持っているソニーであれば、かなり面白いことができるのではないか、と考えていました。
一方で、それだけ重厚な事業を立ち上げていくには正直なところ力不足だったかな、と思います。
その後、社内の協力を取り付けて事業企画を進めていく手法を勉強するため、とある先輩のプロジェクトを半年ほど手伝いました。この製品はまだ世に出ていませんが、いずれ多くのユーザーに喜ばれるものになることを確信しています。
これだけ多くの経験をしたソニーを退職する直接のきっかけは、BILが解散となることです。社内の他の部門に移籍することも考えたのですが、自分で事業を持って会社を立ち上げたい、という思いが消えず、この決断に至りました。自分はまだ20代後半で、どこかで失敗するなら早めに失敗して、そこから学びたい、という気持ち。ソニーは良い会社、完成された会社なので、失敗をしないように社員を守ってくれる仕組みがそこかしこにある。それらが全て取っ払われた環境で、自分に何ができるのか。
これから、まずは、BILで最後に持っていたプロジェクトをベースに、事業化を狙っていきます。